近年、企業の組織づくりにおいて、「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」と「ティール組織」という二つのコンセプトが注目を集めています。
これらは、単なる経営手法ではなく、組織の本質的な変革を促す重要な概念です。
本記事では、MVVとティール組織の基本概念から、それらを組み合わせることで生まれる相乗効果、そして実際の導入事例までを解説します。
組織変革を模索している経営者や人事担当者にとって、新たな視点を提供できれば幸いです。
MVVとは?組織の存在意義を明確にする三要素
MVVとは、Mission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Values(バリュー)の頭文字を取った言葉で、組織の存在意義と方向性を明確にするための三要素です。
ミッション
「なぜ私たちはここにいるのか」という組織の存在理由や社会的使命を表します。
「世界中の人々の移動を革新する」「すべての人が健康で豊かな生活を送れる社会を創造する」といった形で表現されることが多いでしょう。
ビジョン
「私たちはどこへ向かうのか」という組織の目指す未来像を描きます。
「10年後に国内シェアNo.1になる」「2030年までにカーボンニュートラルを実現する」など、具体的な到達点を示すものです。
バリュー
「私たちはどのように行動するのか」という組織の行動指針や価値観を示します。
「正直であること」「挑戦を恐れないこと」「多様性を尊重すること」など、日々の判断や行動の基準となる価値観を表します。
MVVが明確に定義され、組織全体に浸透することで、従業員は自分の仕事の意義を理解し、自律的に判断・行動できるようになります。
また、採用活動においても、企業の価値観に共感する人材を引き寄せる効果があります。
ティール組織とは?自己組織化による新しい組織の形
「ティール組織」は、経営思想家フレデリック・ラルー氏が著書『ティール組織』で提唱した新しい組織モデルです。
ラルー氏は人類の意識発達と組織の進化を色で表現し、最も進化した組織を「ティール(青緑色)」と名付けました。
ティール組織には、以下の3つの特徴があります。
1.自主経営(セルフマネジメント)
階層構造や上司の指示ではなく、チームが自律的に意思決定を行います。
権限は分散され、現場の判断が尊重されます。
2.全体性(ホールネス)
従業員は「仕事用の顔」ではなく、感情や直感を含めた「ありのままの自分」で組織に参加します。
多様な個性や能力が尊重され、活かされる文化を作ります。
3.存在目的(エボリューショナリー・パーパス)
組織は生命体のように独自の存在意義を持ち、環境に適応しながら進化します。
従業員は組織の目的に共感し、その実現に向けて自発的に行動します。
ティール組織は、従来の「指示・管理」型の組織と異なり、人々の内発的動機づけと創造性を活かした組織運営を実現します。
Zappos、Buurtzorg、パタゴニアなど、世界的に知られる企業がこの概念を取り入れ、成功を収めています。
MVVとティール組織の相乗効果

MVVとティール組織は、互いに補完し合う関係にあります。
MVVが組織の方向性を明確にし、ティール組織がその実現のための組織構造と文化を提供するのです。
MVVがティール組織を支える
ティール組織の特徴である「存在目的」は、明確なミッションがあってこそ機能します。
組織の存在理由が明確であれば、従業員は自律的に判断し、行動できるのです。
また、共有された価値観(バリュー)があることで、分散型の意思決定においても一貫性が保たれます。
ティール組織がMVVを活性化する
一方、ティール組織の「自主経営」と「全体性」の文化は、MVVを単なる掛け声ではなく、日常の行動に落とし込む環境を作ります。従業員が自分の価値観や強みを発揮できる場があれば、組織のミッションやビジョンへの共感も深まるでしょう。
この相乗効果により、組織は以下のような変化を遂げることができます:
- 従業員のエンゲージメントと満足度の向上
- イノベーションの創出
- 環境変化への迅速な適応
- 持続可能な成長
実践事例から学ぶMVVとティール組織の導入ステップ
実際に、MVVとティール組織の概念を導入した企業の事例から、その実践方法を探ってみましょう。
事例1:IT企業A社
A社では、まず経営層と中間管理職によるMVVの策定ワークショップを実施しました。
その後、全社員を巻き込んだ対話の場を設け、MVVの言葉に社員の声を反映させました。
MVVが定まった後、段階的にティール組織の要素を導入。
まずは小規模なプロジェクトチームで自主経営を試験的に導入し、成功体験を積み重ねていきました。
結果、組織の柔軟性が高まり、新規事業の創出スピードが向上したと報告されています。
事例2:医療法人B会
B会では、「患者中心の医療」というミッションを起点に、ティール組織の概念を導入しました。
現場のスタッフが自律的にシフトを組み、患者のケアについて意思決定できる仕組みを構築。
また、職種や階層を超えた「全体性ミーティング」を定期的に実施し、お互いの専門性を尊重しながら協働する文化を育てました。
結果、スタッフの離職率が低下し、患者満足度が向上したとのことです。
これらの事例から、MVVとティール組織を導入するための重要なステップが見えてきます。
- 1.MVVの明確化と共有
- 組織全体を巻き込んだプロセスでMVVを策定し、浸透させる
- 2.小さな実験から始める
- 一部のチームや部門から自主経営を導入し、成功体験を積み重ねる
- 3.対話の文化を育てる
- オープンなコミュニケーションと心理的安全性を確保する場を作る
- 4.リーダーシップの変革
- 管理者は「コントロール」から「サポート」へと役割を転換する
- 5.継続的な振り返りと適応
- 固定的なモデルではなく、組織に合った形に常に進化させる
MVVとティール組織の導入における課題と解決策
MVVとティール組織の導入は、多くの組織にとって大きな変革を意味します。
その過程ではさまざまな課題が生じることがあります。
ここでは、よくある課題とその解決策を紹介します。
課題1:「言葉だけ」のMVVになりがち
解決策:MVVを日常の意思決定や評価制度に組み込み、実践的な価値を持たせましょう。
また、経営層自らがMVVに基づいた行動を率先して見せることも重要です。
課題2:自主経営への不安や抵抗
解決策:一気に全組織を変えるのではなく、小さな範囲から始め、徐々に拡大していきましょう。
また、意思決定の基準や相談できる先輩社員を明確にすることで、不安を軽減できます。
課題3:ティール組織に合う人材の育成と採用
解決策:自律性や協働性を重視した採用基準を設け、入社後も自己成長を支援する研修や機会を提供しましょう。
既存社員には、新しい組織文化への適応をサポートするコーチングやメンタリングが効果的です。
課題4:成果測定の難しさ
解決策:従来の数値目標だけでなく、MVVの実践度や組織風土の変化を測る定性的な指標も取り入れましょう。
定期的な社員サーベイや対話セッションを通じて、変化の兆しを捉えることが大切です。
まとめ:MVVとティール組織で実現する持続可能な組織成長

MVVとティール組織は、単なる経営トレンドではなく、VUCA時代における組織の持続可能性を高める重要な考え方です。
明確な存在意義と方向性を持ち、同時に柔軟で自律的な組織構造を採用することで、環境変化に強く、人々の創造性を最大限に活かせる組織が実現します。
しかし、これらの概念を自社に取り入れるには、経営層のコミットメントや組織文化の変革など、多くの課題を乗り越える必要があります。
一朝一夕に実現できるものではなく、継続的な学びと実践が求められるのです。

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MVVの考え方から始まり、自主経営や全体性といったティール組織の要素に関する理解を深め、自社の組織文化に活かせる知識とスキルを習得できます。
理論だけでなく、参加者同士の対話や実践的なワークを通じて、実際の組織づくりに活かせる学びを提供します。
組織変革の第一歩を踏み出したい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
未来の組織づくりを、共に学び、創り上げていきましょう!
