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「ウチ」と「ソト」の調和が鍵!C.アージリスに学ぶ個人の成長と自己実現

執筆者 | 2025年06月13日 | 研修, 組織醸成 | コメント0件

自分らしさを活かして働きたいけれど、会社の評価や周囲の期待も気になる…

多くのビジネスパーソンが、このような内なる想い(ウチ)と外部環境からの要求(ソト)との間で葛藤を抱えているのではないでしょうか。

この葛藤を乗り越え、個人が真に成長し、自己実現を果たすためには何が必要なのでしょうか。

本記事では、組織心理学の大家であるクリス・アージリスや、発達心理学者のロバート・キーガンの理論を紐解きながら、個人が「ウチ」と「ソト」のバランスをとり、いかにして自己実現に至るのか、そのメカニズムと組織ができる支援について考察します。

私たちは日々、様々な環境の中で自分自身を「適応(adjusted)」させたり、「順応(adapted)」させたりしながら成長しています。

経営学者クリス・アージリスは、この2つのバランスが個人の成長において非常に重要であると指摘しました。

「適応」とは: 「本当の自分」と一致している感覚
自分のパーソナリティ(個性や人柄)が、自分の内面(大切にしたい価値観、仕事に対する考え方、自由への願望など)とバランスが取れている状態を指します。
「順応」とは: 周囲の期待に応えられている感覚
自分のパーソナリティが、外部環境(組織や上司の評価基準、あるべき規範、家族からの期待など)とバランスを保っている状態を指します。

アージリスは、個々の環境の中で、この「ウチ」への適応と「ソト」への順応が共に均衡が取れている状態を「統合(integration)」と呼び、この「統合」が達成された時に「自己実現(self actualization)」が果たされると考えました。

個人の「ウチ」と「ソト」のバランスの取り方は、その人の発達段階によっても異なってきます。

ハーバード大学のロバート・キーガンが提唱した「成人発達理論」は、大人の知性がどのように発達・変容していくかを理解する上で非常に示唆に富んでいます。

キーガンは、成人後の知性の発達を大きく3つの段階(Three plateaus in adult mental development)で捉えています。

  1. 環境順応型知性(Socialized mind): この段階では、周囲の期待や規範に自分を合わせること(ソトとの順応)が主となります。チームプレイヤーとして忠実に役割をこなし、指示を求める傾向が見られます。
  2. 自己主導型知性(Self-authoring mind): この段階では、自分自身の内なる羅針盤や価値観に基づいて行動しようとします(ウチとの適応)。自ら課題を設定し、独自の視点で問題解決を図ろうとする自律性が特徴です。
  3. 自己変容型知性(Self-transforming mind): この段階では、自分自身の考え方や価値観(ウチ)と、周囲の環境や他者の視点(ソト)を統合的に捉え、必要に応じて自己を変容させていくことができます。複数の視点を持ち、矛盾を受け入れながら、より本質的な問題発見や解決を目指します。

多くの組織人は、キャリアを通じてこれらの段階を経験し、あるいは特定の段階に留まることもあります。

重要なのは、「ウチとの適応」と「ソトとの順応」を繰り返し経験しながら、自己を変容させていくことの重要性を認識することです。

「ウチ」と「ソト」のバランスを取り、自己実現に向かうとは、具体的にどのような状態を目指すことなのでしょうか。

それは、自分の思考と言葉と行動が統合され、一貫した信念を形成していくプロセスと言えます。

図1 (だかぼく hint リーダーシップの教科書 p.33)

図では、横軸に「関係性の維持(共感志向)」、縦軸に「目的の達成(価値志向)」を置き、個人の発達段階を4つのゾーン(無関心ゾーン、順応ゾーン、達成ゾーン、創発ゾーン)で示しています。

順応ゾーン(環境順応型知性)
他者との関係性を重視し、指示待ちになりやすい状態。
達成ゾーン(自己主導型知性)
自分の目標達成に邁進し、場を牽引しようとする状態。

そして、これらの段階を経て目指すべきは、

創発ゾーン(自己変容型知性)
ここでは、自分自身であること(ホールネス)が常態となり、他者との深い共感と理解に基づきながら、新たな価値を共に創造していくことができます。

この「ホールネス」とは、自分の良い面も悪い面も、強みも弱みも全て受け入れた「ありのままの自分」でいられる状態を指します。

自分に正直に、そして誠実に生きることで、内面的な一貫性が生まれ、自信を持って他者と関わることができるようになるのです。

社員一人ひとりが「ウチ」と「ソト」の調和を実現し、自己実現に向かうためには、組織としてどのような支援ができるのでしょうか。

  • 対話の機会の提供: 1on1ミーティングなどを通じて、上司が部下の内面にある価値観やキャリア観(ウチ)に耳を傾け、理解しようと努めることが重要です。
  • 自己認識を深める支援: 自己分析ツールやフィードバックの機会を提供し、社員が自身の強みや課題、大切にしたい価値観を客観的に把握できるようサポートします。
  • 挑戦と学習の奨励: 社員が自身の関心や強みを活かして新たな挑戦ができる機会を提供し、失敗からも学びを得られるような心理的安全性の高い環境を醸成します。
  • 多様な価値観の受容: 組織としての目標や規範(ソト)を明確に示しつつも、社員一人ひとりの多様な価値観や働き方を尊重する風土を作ります。
  • ロールモデルの提示: 「ウチ」と「ソト」を統合し、自分らしく活躍している先輩社員の姿を示すことも、社員にとって大きな励みとなります。

これらの支援を通じて、社員が自律的にキャリアを考え、組織の中で自分らしさを発揮しながら成長していけるよう後押しすることが求められます。

クリス・アージリスの言う「統合」、そしてロバート・キーガンの「自己変容型知性」は、個人が内なる自分と外界の要求を見事に調和させ、真の自己実現を果たすための重要な道しるべです。

それは、自分自身の価値観に正直に生きると同時に、組織や社会に対しても積極的に貢献していく生き方と言えるでしょう。

組織が社員一人ひとりの「ウチ」と「ソト」の調和を支援することは、個人の成長と幸福感を高めるだけでなく、組織全体の活性化、そして持続的なウェルビーイングの実現に不可欠です。

弊社では、社員の自己理解を深め、自律的なキャリア形成を支援するための研修プログラムや、多様な人材がそれぞれの「らしさ」を活かして活躍できる組織風土改革のコンサルティングを提供しております。

「ウチ」なる個人の想いと、「ソト」なる組織の成長を両立させたいとお考えの人事担当者様、経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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