「社員の苦手な部分をなんとか克服させたい」「弱点を指摘して改善を促しているが、なかなか効果が上がらない…」。
人材育成において、このような「弱点克服」に主眼を置いたアプローチは一般的ですが、それだけでは社員のモチベーション向上や組織全体の活性化には限界があるかもしれません。
そこで近年、大きな注目を集めているのが、個々人の「強み(ストレングス)」に着目し、それを最大限に活かすことで個人と組織の成長を目指す「ストレングス・ベースド・アプローチ」です。
本記事では、ポジティブ心理学の知見を基に、社員の強みを活かすことがなぜ重要なのか、そしてその強みをどのように見つけ、仕事に活かしていくのか、具体的な方法を探っていきます。
なぜ「弱点克服」よりも「強み活用」が効果的なのか?
従来の多くのアプローチでは、社員のパフォーマンスを向上させるために、その人の短所や不足しているスキルを特定し、それを改善することに力が注がれがちでした。
しかし、常に自分の「できていないこと」に焦点を当てられることは、社員の自己肯定感を損ね、仕事への意欲を削いでしまう可能性も否定できません。
一方、ポジティブ心理学では、人間が最も能力を発揮し、充実感や幸福を感じるのは、自分の持つ「強み」を活かしている時であると考えられています。
つまり、弱点を平均レベルまで引き上げることよりも、既に持っている強みをさらに伸ばし、それを存分に発揮できる環境を提供することの方が、個人のパフォーマンス向上やエンゲージメント向上に繋がりやすいのです。
強みにフォーカスしたアプローチは、社員が「自分はこれでいいんだ」「この分野なら貢献できる」という自信を持つことを助け、仕事への取り組み姿勢をより前向きなものへと変えていきます。
結果として、生産性の向上や、新たなアイデアを生み出す創造性の開花も期待できるでしょう。
社員の「隠れた強み」を見つけ出す方法とは?

「強み」とは、単に「得意なこと」や「持っているスキル」だけを指すわけではありません。
マーティン・セリグマン博士に代表されるポジティブ心理学の研究では、強みはもっと根源的な、その人らしさを形作る道徳的な特質や思考・行動パターンとして捉えられています。
それは、本人が無意識のうちに自然と使っていて、使っていると充足感を覚え、エネルギーが湧いてくるようなものです。
では、社員自身もまだ気づいていないかもしれない、そうした「潜在的な強み」をどのように見つけ出せばよいのでしょうか。
いくつかの具体的な方法があります。
- 科学的根拠に基づいた強み診断ツールを活用
- VIA-IS(Character Strengths Survey)に代表されるようなツールは、個人の持つ様々な強みを客観的に特定する手助けとなります。
- 上司や同僚、時には部下からの客観的なフィードバック
- 「〇〇さんは、こういう時に本当に頼りになる」「あなたの△△なところが素晴らしいと思う」といった具体的な言葉は、本人では気づきにくい強みを明らかにしてくれます。
- 過去の経験を振り返る
- これまでの仕事で、特に高い成果を上げられた時、時間を忘れて没頭できた時(いわゆるフロー体験)、あるいは困難を乗り越えた時に、自分がどのような能力や資質を発揮していたかを深く掘り下げてみるのです。
そこに、あなたの強みのヒントが隠されているかもしれません。
強みを仕事に活かす!「フロー体験」を生み出す最適な挑戦とは?
社員の強みが見えてきたら、次はその強みを実際の業務で存分に発揮してもらう段階です。
ここで重要なのは、心理学者のミハイ・チクセントミハイ博士が提唱した「フロー体験」という概念です。
フロー体験とは?
人が何かに完全に没入し、集中力が高まり、活動自体に喜びを感じている状態を指します。
このフロー状態に入るためには、本人の持つスキルレベルと、取り組む課題の難易度が適度に釣り合っていること(フローチャネル)が重要だとされています。
課題が簡単すぎると退屈を感じ、難しすぎると不安やストレスを感じてしまいます。
組織としては、社員一人ひとりの強みを考慮し、その強みが活かせるような、そして適度な挑戦感のある業務や役割を割り当てることが求められます。
例えば、新しいプロジェクトチームを編成する際にメンバーの強みを考慮したり、本人の強みを伸ばせるような研修機会を提供したりすることも有効です。
強みを活かして小さな成功体験を積み重ねることが、さらなるモチベーション向上と成長に繋がります。
「強み」を活かし合う組織文化をどう醸成するか?

個人の強みを活かす取り組みは、それ自体非常に価値がありますが、その効果を最大化するためには、チームメンバーがお互いの強みを理解し、尊重し、そして補い合えるような組織文化を育むことが不可欠です。

リーダーの役割は特に重要です。
メンバーそれぞれの強みを的確に把握し、それを引き出すようなコミュニケーションや業務の割り振りを心がける「ストレングス・ベースド・コーチング」のようなアプローチが有効です。
また、チームミーティングなどの場で、お互いの強みやそれを活かして成功した事例などを共有する機会を設けるのも良いでしょう。
これにより、メンバーは互いの強みに対する理解を深め、困難な課題に直面した際にも、「この部分は〇〇さんの強みを借りよう」といった協力体制が生まれやすくなります。
強みを認め合い、活かし合う文化は、チーム全体のパフォーマンスを高め、より創造的で活力ある職場環境を生み出すでしょう。
まとめ:「強み」への着眼が、個人と組織の新たな可能性を開く
社員の「弱点克服」に偏りがちな従来の人材育成から、「強み活用」へと視点を転換することは、個人の成長と幸福感を高めるだけでなく、組織全体の生産性向上、エンゲージメント強化、そしてイノベーション促進に不可欠な経営戦略と言えます。
一人ひとりが持つ固有の「強み」に光を当て、それを組織として最大限に活かす努力を続けることで、社員はより意欲的に仕事に取り組み、組織はこれまで以上の活力を得ることができるでしょう。

弊社では、社員の強みを発見し、それを日々の業務やキャリア形成に活かすための具体的な手法を学べる研修プログラムや、強みを活かし合う組織文化を醸成するためのコンサルティングサービスを提供しております。
組織の人材育成や活性化に新たなアプローチをお探しの人事担当者様、経営者様は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
