「うちの社員は指示待ちが多くて…」「もっと当事者意識を持って仕事に取り組んでほしいのだが…」
こうした悩みは、多くの人事担当者や経営者が抱える共通の課題ではないでしょうか。変化の激しい現代において、組織が持続的に成長していくためには、社員一人ひとりが自ら考え、行動する「主体性」が不可欠です。
では、どうすれば社員の主体性を引き出すことができるのでしょうか?本記事では、「人生の運転席」という考え方と、その科学的根拠となる脳の仕組み「RAS(網様体賦活系)」に着目し、社員の主体性を育むためのヒントを探ります。
あなたは「運転席」?それとも「助手席」?働き方を左右する意識のありか
あなたは、日々の仕事において「運転席」に座っていますか?それとも「助手席」でしょうか?
これは、私たちの生き方や働き方を左右する重要な問いかけです 。
- 「助手席に座る=反応的な生き方」:
- 外部からの刺激(例:上司からの指示、顧客からの要望、目の前で起きた問題)に対して、ただ受け身で反応するだけの状態です 。目的地やルート選択を運転手に委ねるように、自らの意思で状況をコントロールしようとはしません。
- 「運転席に座る=主体的な生き方」:
- 外部からの刺激に対して、それをどう解釈し、どのように行動するかを自ら「選択」する状態です 。例えば、交差点が見えた時、いつも通り右折するのではなく、「今日は混んでいそうだから左折して抜け道を行こう」と自ら判断し、新たな経験を積むことができます 。
主体的に「運転席」に座ることで、私たちは目の前の仕事や出来事に対して当事者意識を持ち、より深く思考し、自律的な行動をとれるようになります。
それは、仕事の質の向上だけでなく、個人の成長にも繋がる重要な意識変革なのです。
脳のフィルター「RAS」とは?主体性が高まると世界が変わって見える科学的根拠

「運転席に座ると見える景色が変わる」という言葉には、実は科学的な根拠があります 。
その鍵を握るのが、私たちの脳に備わっている「RAS(Reticular Activating System:網様体賦活系)」という機能です 。
RASは、中脳に位置し、様々な感覚刺激を大脳皮質に送る役割を担っています。私たちの脳には毎秒約200万ビットもの膨大な情報が入力されていますが、そのすべてを意識的に処理することは不可能です。RASは、この入力情報の中から「自分の興味・関心」に基づいて情報を約1/1000に絞り込む、いわば*「フィルター”のような働き」をしています 。
つまり、私たちが何を重要だと認識し、何に関心を持つかによって、RASが通す情報、つまり私たちが「認識する情報」が変わってくるのです 。
主体的に「人生の運転席」に座り、「自分は何を成し遂げたいのか」「何に価値を置くのか」を明確に意識することで、RASのフィルター設定が変わります。その結果、これまで見過ごしていた情報、気づかなかったチャンス、新しい解決策のヒントなどが、鮮やかに目に飛び込んでくるようになるのです。
これが、「見える景色が変わる」「今まであたり前だった風景が鮮やかに彩られていく」ことの科学的なメカニズムです 。
社員を「運転席」に導くために人事ができること・組織として取り組むべきこと

では、社員一人ひとりが「人生の運転席」に座り、主体性を発揮できるようになるためには、組織としてどのような働きかけができるのでしょうか。
まず大切なのは、社員が自ら考え、選択し、行動することを奨励する文化を醸成することです。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- 自己決定の機会を増やす:
- 目標設定や業務の進め方において、社員自身の意見やアイデアを尊重し、自己決定の機会を積極的に提供します。
- 挑戦を奨励し、失敗から学ぶ文化:
- 新しいことへの挑戦を歓迎し、たとえ失敗してもそれを責めるのではなく、学びの機会として捉える文化を育みます。
- 権限移譲の推進:
- 意思決定の権限を現場に近い社員に積極的に移譲し、責任感と当事者意識を醸成します。
- 内発的動機付けを重視した評価:
- 結果だけでなく、プロセスや挑戦する姿勢、自律的な学びなどを評価し、社員の内発的なモチベーションを引き出す評価制度を設計します。
- コーチング型マネジメントの実践:
- リーダーやマネージャーが、指示命令ではなく、問いかけを通じて部下の気づきを促し、主体的な行動を引き出すコーチングスキルを習得・実践します。
これらの取り組みを通じて、社員が「自分には選択権がある」「自分の行動が未来を変える」と感じられる環境を整備することが、主体性を育む上で非常に重要です。
主体的な社員が組織にもたらす変革とは?エンゲージメント向上とイノベーション創出

主体性を持った社員が増えることは、組織に計り知れないほどのポジティブな変化をもたらします。
- エンゲージメントの向上:
- 自らの意思で仕事に取り組み、そのプロセスや結果に責任を持つことで、仕事への情熱や没頭度(エンゲージメント)が格段に向上します。
- 当事者意識に基づく課題解決:
- 問題を他人事と捉えず、自らが解決すべき課題として当事者意識を持って取り組むため、より迅速かつ効果的な解決策が生み出されやすくなります。
- 自律的な学習と成長:
- 目標達成のために何が必要かを自ら考え、不足している知識やスキルを主体的に学び続けるようになります。
- イノベーションの創出:
- 既存の枠にとらわれず、新しい視点や発想で業務改善や新規事業のアイデアを生み出す原動力となります。
「数字」を必達させ「命令」によって従わせる「20世紀型マネジメント」から、「顧客への価値」を大切にし「対話」による共創を重視し「内なる動機」を芽生えさせる「21世紀型マネジメント」への転換となります。
主体的な社員こそが、この新しい時代のマネジメントを体現し、組織に変革をもたらすのです。
まとめ:社員の主体性が、組織の未来を切り拓く
本記事では、社員の主体性をいかに育むかというテーマに対し、「人生の運転席」理論と、脳科学に基づいた「RAS」の機能をご紹介しました。
社員が自らの意思で「運転席」に座り、主体的に仕事に取り組むことは、個人の成長を促すだけでなく、組織全体のエンゲージメント向上やイノベーション創出に不可欠な要素です。
「どうせ言っても変わらない」と社員が諦めてしまう組織から、「自分たちの手で未来を創り出せる」と実感できる組織へ。その変革の第一歩は、社員一人ひとりの意識と、それを支える組織文化の変革から始まります。

弊社では、社員の主体性を引き出し、エンゲージメントを高めるための具体的なコミュニケーションスキルやマネジメント手法を学べる研修プログラムを提供しています。また、21世紀型の自律的な組織文化を構築するためのコンサルティングも行っております。ご興味をお持ちの人事担当者様、経営者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
